【あらすじ・感想(ネタバレなし)】ザリガニの鳴くところ ディーリア・オーエンズ著

ザリガニの鳴くところあらすじと感想のアイキャッチ画像 小説・エッセイ

2021年本屋大賞翻訳小説部門第1位受賞作として話題になっていた当時から気になっていました。

全米500万部、全世界1500万部突破の作品で、日本でも日本語版が2021年本屋大賞翻訳小説部門第1位を受賞しており、2022年に映画化もされています。

著者ディーリア・オーエンズ(友廣 純ともひろ じゅん訳)
出版社早川書房
出版年2020年3月 初版発行(日本語版)
その他原作は2019年2020年に全米で最も売れたベストセラー

著者ディーリア・オーエンズについて

アメリカのジョージア州出身。動物学者でもあり、多数の動物にまつわるノンフィクションを執筆している。ネイチャーなどの学術雑誌に論文も多数掲載、オオカミなどの動物保護や湿地の保全活動も実施。69歳の時、子どもの頃からの夢であった小説家という夢を実現させ、著者にとって初の小説「ザリガニの鳴くところ」がベストセラーとなる。

あらすじ

1969年にアメリカのノース・カロライナ州の湿地でチェイスという青年の死体が発見される場面からこの物語は始まる。

主人公は「湿地の少女」と呼ばれるカイアという少女。カイアは6歳の時に家族に見捨てられ、湿地の小さな小屋でたったひとり湿地の自然と共に暮らしていた。

物語は、死体が発見された1969年と1952年以降のカイアの過去を行き来しながら語られていく。

村の学校へも行かず文字も読めなかったカイアにテイトという少年が読み書きを教えてくれ、親しい仲になるが、彼もカイアの元を去ってしまう。

再び孤独に生きていたカイアはチェイスという青年と親しくなる。

チェイスは殺害されカイアは犯人だと疑われる。
チェイスは殺されたのか・・・?カイアは犯人なのか・・・?

最後の最後に真相が明らかになる・・・!

感想

sachi
sachi

ネタバレはしていませんが、上記のあらすじより本の内容に踏み込んでいます。
これ以上内容を知りたくない方は次の章までスキップしてください!

様々なジャンルで構成された小説

この物語は、自然・環境、家族、差別・偏見、恋愛、ミステリーなど様々なジャンルが盛り込まれていと感じました。

物語の舞台が湿地であることと、著者が動植物に精通していることから、湿地の自然や動物の表現が非常に詳細です。また、物語の中に湿地の環境問題に関する話題も登場し、さすが専門家の著書であると感じました。

カイアの家庭事情は複雑です。
カイアは5人きょうだいの末っ子で、父、母、兄、姉とともに湿地の窮屈な小屋で暮らしていました。
父は第二次世界大戦を経験した元兵士で、戦争で負傷し酒ばかり飲んでは家族に暴力を振るっていたため、そんな父のDVに耐えられず母、兄、姉が次々と家を出ていき、残ったのは一番歳が近い兄のジョディと父親だけになってしまいます。
ジョディは心優しく、カイアにボートの乗り方など湿地で生きる術を教えてくれましたが、遂に彼も家を去ってしまいます。
家族が次々と去っていった後も、いつか母が帰ってくることを夢見ていることが分かる場面が度々あり、とても切なくなりました。

不定期に家に帰ってくる父と2人きりになってしまったカイアは、わずかな資金で食料や日用品を調達し料理や家事も自分でやらなくてはならなくなります。
買い物は村まで行かなければなりませんが、村の人々は湿地の住民を「湿地の貧乏人」と呼び嫌遠していました。
また、カイアは一度村の学校へ通いますが、湿地で暮らしていることを理由にいじめにあい、二度と学校へは通わなくります。
学校へ行けば給食が食べられ、その分の食事は自分で賄わなく済むことは分かっていながらも学校へは通わないことを選択せざるを得なかったカイアが置かれた状況にやるせ無さと憤りを感じました。

カイアは採取した貝を売った利益で生活費を賄うことを思いつきます。
取引先の店を経営するジャンピンと妻のメイベルはカイアを気にかけてくれていました。
夫婦は黒人で、後に黒人の差別に関連するエピソードも登場します。
彼らの状況を示すエピソードはあまりありませんが、彼らも決して居心地の良い状況ではなかったのではないかと想像しました。
度々登場するこの夫婦がカイアのことをとても気にかけている様子は毎回心が温まりました。

ある時カイアは釣りをしている少年テイトと出会い、テイトはカイアに読み書きを教えてくれようになります。
カイアはテイトを一人の男性として意識するようになり、二人の仲は深まります。
孤独だったカイアの暮らしにテイトという存在が登場し、カイアの心と暮らしが明るくなっていく様子は微笑ましく心が弾むものでした。

しかし明るい兆し見えたと思われた頃、テイトもカイアから去ってしまいます。
カイアがテイトが去ってしまった事実を受け入れ涙するシーンは切なさとやるせ無さに溢れていました。

再び孤独になったカイアにチェイスというプレイボーイな青年が接近します。
孤独な生活が続いていたカイアはチェイスの存在に惹かれていき、徐々に物語の雲行きが怪しくなっていきます。
後にこの青年が死体となって発見されることとその犯人としてカイアが疑われることを知っているので、この2人の仲がどのように進展していくのか気になり、次々と読み進めたくなりました。

カイアの過去のストーリーの合間に、死体が発見された1969年に時代は戻り、保安官らにより事件の真相解明が進められていき、遂に裁判が行われます。
繰り広げられる裁判の様子は詳細で臨場感があり、カイアを支えてくれる仲間たちに心が温まりました。

裁判の結果が出るまでハラハラ・ドキドキでした!

そして最後の最後で明らかになる結末にはドキッとさせました・・・!

印象に残った箇所(引用抜粋)

文字が読めるようになったカイアにテイトはカイアが興味を持ちそうな湿地の生態に関する本や生物の本を持ってきてくれます。
熱心にそれらの本を読むカイアの様子が描かれた箇所で印象に残った文章がこちらです。

カイアが生物学の本の中に探しているのは、なぜ母親が子を置き去りにすることがあるのか、という疑問を解いてくれる言葉だった。

(単行本 p.183)

母が幼い自分を置いて去ってしまった事実が常にカイアの心に重くのしかかっていたことを感じさせられました。

裁判の最終陳述の場面で、カイアの弁護士が発した言葉の中で印象に残った言葉の一部がこちらです。

けれど、みなさん、我々は彼女が異質だから締め出したのでしょうか?それとも我々が締め出すから異質の存在になったのでしょうか?

(単行本 p.466)

この言葉は例えば学校のような小さなコミュニティでも国や地域といった大きなコミュニティにおいても考えさせられる言葉だと感じました。

まとめ

本書のおすすめポイントを3つまとめてみました!

おすすめポイント① 壮大な自然を舞台にした物語に非日常を感じられる

動物行動学者である著者が表す湿地の自然の壮大さ、力強さが伝わり、日常とはかけ離れた自然が頭の中に広がり、物語の舞台へ引き込まれていきます。
非日常を味わいたい方におすすめです。

おすすめポイント② 様々なジャンルの要素を網羅している

自然を舞台にした小説であり、事件の真相解明に向かって物語が進んでいくミステリー小説でありながら、恋愛、家族事情、差別や環境などの社会問題も盛り込まれた小説です。
一つの小説で様々な分野を考えさせられる一冊です。

おすすめポイント③ ドキッとするラスト

ネタバレはしたくないのでぜひ実際に読んで確かめてみてください!本当の最後の最後にドキッとします!

以上、ぜひ次の一冊の参考にして頂ければ幸いです。

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